
直販雑誌「いきいき」(現:「ハルメク」)でそれぞれ編集と商品開発に携わる。
元上司の永島美奈子さんが天然温泉施設「ゆの里」に転職したことがきっかけで脱サラを決意。
2017年東京の下町・門前仲町でゆの里の豆乳ヨーグルトをメインメニューとするカフェ「みずのとびら」をオープン。
地元のちびっ子やワンコたちも気楽に集まれるカフェを目指して日々楽しく働いている。
[ほりば] 本日は、門前仲町にあるカフェ「みずのとびら」にお邪魔しています。店主のお二人にお話をお伺いします。よろしくお願いします。 まずは自己紹介を兼ねて、お名前とお店の紹介からいただけますか?
[奥さん] はい、「みずのとびら」の一応オーナーをやっております、奥知子と申します。よろしくお願いします。
[小林さん] オーナー補佐をやっています、小林路子(みちこ)です。一緒にお店を運営しています。
[ほりば] ありがとうございます。「みずのとびら」というのは、一体どういったカフェなのでしょうか?
[奥さん] オープンしたのは2017年の5月です。基本的には、和歌山県にある温泉(「ゆの里」)の、お水を使った商品をお出ししているお店です。
「ゆの里」は『月のしずく』というミネラルウォーターなどで有名なのですが、当店ではそのお水を使った「豆乳ヨーグルト」をメインに提供しています。
[ほりば] 『月のしずく』はとても有名ですよね。ただ、「お水」と「豆乳ヨーグルト」がどう結びつくのか、パッとイメージが湧かない方もいるかもしれません。このお水を使ったヨーグルトには、どのような特徴があるのですか?
また、店内を拝見するとブルガリアのグッズもたくさんありますね。

[小林さん] この豆乳ヨーグルトには、ブルガリアの乳酸菌2種類と、日本の乳酸菌2種類を使っています。その乳酸菌を培養する際に、ゆの里の「月のしずく」や「金水(きんすい)」というお水を使っているのが大きな特徴です。
[ほりば] なるほど、お水に秘密があるのですね。それは、単に「美味しい」というだけでなく、身体にも良い影響があるのでしょうか?
[小林さん] そうですね、普通のヨーグルトとは「機能性」が全然違うと、ゆの里の重岡(しげおか)社長からも太鼓判を押していただいています。

[ほりば] そんな「ゆの里」のお水を使ったメニューを販売されているこちらのカフェですが、場所は門前仲町ですよね。どのようなお客様がいらっしゃいますか?
[奥さん] 基本的には地元の方々ですね。門前仲町は若い世代もたくさん住んでいますし、昔からずっと住んでいらっしゃる方も多い街です。
そのため年齢層がとても幅広くて、赤ちゃん連れの若いママさんから、上は92歳の方まで来てくださいます。
[ほりば] さきほどもお邪魔していたら、ワンちゃん連れのお客様がいらっしゃいましたね。

[奥さん] そうなんです。私が犬好きで、彼女(小林さん)が子供好きなんです。
オープンの頃は赤ちゃん連れのお客様がすごく多くて賑やかだったのですが、最近はその子たちが大きくなって少し落ち着きまして(笑)。 その代わりに、最近はワンちゃん連れの方がたくさん来てくださるようになりました。
外を通るワンちゃんと目が合うと、私たちが「どうぞどうぞ、入って!」とお招きしちゃうんです。ワンちゃん用のヨーグルトをあげたりもして。私たちがワンちゃんと遊びたいから来てもらっているようなところもありますね(笑)。
[ほりば] お二人がいつも楽しそうにお客様とお話しされているのが印象的です。もともと接客や、人と話すのがお好きなタイプだったのですか?
[小林さん] 奥さんはもともと人が大好きで、接客も得意なタイプだと思います。
私はどちらかというと、昔はそこまで社交的ではなかったんです。ただ、学生時代に飲食店でアルバイトをしていたのでベースはありました。でも、このお店を始めてから、以前よりたくさん喋るようになった気がしますね。

[ほりば] 普段、私はお二人のことを「おくともちゃん」「みっちゃん」と呼ばせていただいていますが、みっちゃん(小林さん)は調理担当というか、美味しいミートソースやスイーツなどを抜群のセンスで作ってくれますよね。
[小林さん] そうですね。学生時代の飲食店のバイト経験もありますし、何より自分が食べることが大好きなので、その延長で色々作っています。
[ほりば] お客さんの立場からすると、特に用事がなくても、お二人に会っておしゃべりするだけで元気がもらえると感じます。そういうお客様も多いのではないでしょうか。
[奥さん] 実は、このお店を始めるときに「そういう場を作りたい」という思いが強くありました。
昔、イタリアの村を紹介するドキュメンタリー番組を見たんです。そこでは街角の日陰や小さなカフェで、みんなが日常的におしゃべりを楽しんでいて。最近の日本はチェーンのカフェが増えて、隣の人やお店の人と気軽に喋る空間が少なくなってきている気がします。
だからこそ、みんながふらっと集まっておしゃべりできるような、そんな温かい場を作りたいと思ったのが、このお店の最初のきっかけですね。

[ほりば] そんなお二人ですが、このカフェを始める前は、全く別のお仕事をされていたんですよね。
[奥さん] はい。もともとは出版社にいました。「いきいき(現:ハルメク)」という、シニア向けの雑誌出版と通販をやっている会社です。私はそこに17年間勤めて、編集の方をやっていました。
[小林さん] 私は最初、通販の仕入れなどの業務を担当していたのですが、どうしても商品開発をやりたいという思いがありまして。念願が叶って、途中からは商品開発をやっていました。
[ほりば] お二人とも同じ出版社にいらしたのですね。しっかりした会社ですし、そこにいれば将来も安泰だったのではないかと思います。あえて会社を辞めてお店を開くことになった、具体的なきっかけは何だったのでしょう。
[奥さん] 正直に言うと、最初は「お店をやりたい」というより、単に「会社を辞めたい」という思いが先でした(笑)。
私はずっと編集の道を突き進んで、将来は編集長になるものだと思って働いていたんです。 でも、会社が民事再生を行って社長交代などがあり、ガラリと環境が変わったことが大きかったですね。
さらに、私たちの直属の上司だった永島さんという方が、先に退職して和歌山の「ゆの里」に就職されたんです。その後、別の頼れる上司も病気で倒れてしまって……。
会社の方針が大きく変わる中で、「ここが引き際かな」と感じました。
[ほりば] なるほど。では、会社を辞めようと思ったタイミングで、すぐ「二人でお店をやろう!」となったのですか?
[小林さん] それが、何回思い出そうとしても、「この日に決めた」という明確な瞬間がないんですよね(笑)。本当に不思議なのですが、自然な流れでした。
[奥さん] 先に「ゆの里」に移られた永島さんのことがあったので、その後4〜5年は会社で働きながらも、「いつかあのお水を使って何かやりたいね」という夢物語のような話はぽろぽろと二人でしていたんです。
でも、「よし、このお店をいつオープンしよう!」と明確に決断した瞬間は、意外と思い出せないんです。
[小林さん] 本当に、大きな川の流れにバーっと乗せられてここまで来た、という感覚なんです。
[ほりば] 自然な流れに身を任せて、ここまでの形にされたのですね。とはいえ、これだけのお店をオープンさせるには、資金集めや場所探しなど、大変なことも多かったのではないでしょうか?
[奥さん] それが、驚くほどスムーズだったんです。会社に「辞めます」と言った時点では、まだお店の場所すら決まっていませんでした。ただの勢いです(笑)。
でも、その直後に奇跡的なことがあって。通販の仕事をしていた頃にお世話になっていた靴屋のオーナーさんが、ちょうどこの門前仲町の物件で靴を売っていらしたんです。その方が「自分はもうここを閉めるから、二人が会社を辞めて何かやるなら、ここを貸してあげるよ」と言ってくださって。
会社に退職を伝えたのとほぼ同じタイミングで、この場所が決まりました。
[ほりば] まさに、お水が流れるように、すべてが導かれるように決まっていったのですね。
[小林さん] 後から振り返ると、本当にそう感じますね。
お客様に「どうしてここを開いたの?」と聞かれて、この話を何度も繰り返していくうちに、自分たちでも「ああ、本当に自然な流れだったんだな」としみじみ実感しています。

[ほりば] オープンしてからは順調でしたか?お店を維持していくのは大変なことだと思いますが。
[小林さん] よく周りからもそう言われます。ただ、私たちはある意味「背負うものがない」というのが強みかもしれません。お互いに独身で子供もいないので、自分の身一つ。最悪、上手くいかなくてお店を畳むことになっても、誰かに迷惑をかけるわけではないので、「ダメならその時考えよう」と気楽に構えていました。
[奥さん] 当時はとにかく「宮仕え(会社員)」を辞めたいという思いが強かったんです(笑)。
もちろん会社員時代は楽しかったですし、私たちの青春そのものでした。辞めた当時がちょうど40代後半で。年齢的にも人生の転換期でしたし、組織にいるとどうしても自分の思い通りにいかないことも増えますよね。これからの人生は自分の思うように生きたい、という気持ちが勝って、先の不安はあまり考えませんでした。
でも、今冷静に考えたら、1個350円のヨーグルトを1日に何個売って、ランチに何人入れなきゃいけないか……恐ろしいですよね(笑)。
[小林さん] 一応、当時はそういう数字のシミュレーションを書いた企画書を持って、ゆの里の重岡社長にプレゼンしに行きましたよね。懐かしいです。まあ、実際の数字はその予定通りにはなっていませんけど(笑)。
[ほりば] 予定通りではなくても(笑)、今年でオープンして9年目を迎えて、こうして続いていらっしゃるのは本当にすごいです。いつお邪魔しても、お二人がとても幸せそうに働いているのが印象的です。お店をやっていて、何が一番楽しいですか?
[小林さん] さっきも話していたのですが、「明日、お店に行きたくないな」と思う日が一日もないことです。
会社員時代は、日曜日の夕方になると『サザエさん症候群』のようになって、「明日からまた仕事か……」と憂鬱になることもありました。それが今は全くなくて、毎日すごく軽やかな気持ちでここへ来られる。それが何より幸せです。
[奥さん] あとは、毎日どんなお客様が来るか分からないワクワク感ですね。「商売は飽きない(商い)」と言いますけれど、本当にその通りで。毎日来てくださる常連さんもいれば、日によって不思議な面白い方がフラッと現れたりもする。毎日のトークのネタが尽きないのが、本当に面白いです。

[ほりば] 女性二人での共同経営と聞くと、世間一般では「意見がぶつかって大変じゃない?」と言われることも多いかと思います。お二人の間ではそういった衝突はないのですか?もともと大親友だったのでしょうか?
[奥さん] 「会社員時代からよく二人で旅行に行ってので、周りからそういう関係なの?」と聞かれますが、全然そうではないんです(笑)。 なんとなくウマが合って、良く旅行にも出かけていたんです。
私は編集、みっちゃん(小林さん)は商品開発という立場で、前の会社では、商品部と編集部がワイワイ意見を戦わせながら一冊の雑誌を作っていました。その頃から「目指すゴール(良いものを作る)」が常に一緒だったんです。だからお互いへの信頼のベースが最初からありました。
[小林さん] お互いにこういう性格なので、言いたいことは一応その場でハッキリ言います。その上で「私たちが目指す方向は一緒だよね」という確認を、節目節目で自然とやっている気がしますね。
[奥さん] べったりしたお友達関係ではないからこそ、「ここはこうした方がいいんじゃない?」とビジネスとして冷静に言えるんです。
あとは、お互いの生活リズムや、持っている得意分野が全く違うので、上手く凹凸が組み合わさって補い合えているんだと思います。
[小林さん] あとはやっぱり、最低限の気遣いはしています。「ここから一線は越えない」というリスペクトの境界線は、お互いに無意識に守っていると思いますね。

[ほりば] この9年の間で、「ここは本当に大変だった、辛かった」という時期はありましたか?
[小林さん] うーん……大変なことといえばコロナ禍がありましたが、むしろあの期間があったからこそ、今もお店が続いているような気がするんです。
[ほりば] と言いますと?
[小林さん] それまでは「ゆの里」のファンの方が、遠方からわざわざお目当てに足を運んでくださることが多かったんです。
でもコロナ禍になって遠出ができなくなったとき、意外にもこの近所、地元の方々がものすごくたくさん来てくださるようになって。当店はお酒を提供していなかったので、自粛期間中も営業を続けられたのが幸いしました。
[奥さん] そうね。みんな行き場がない中で、ここに来れば誰かと話せる、という場所になれた。
地元の素敵な人たちとの繋がりが、コロナ禍をきっかけにグッと深まりました。 もちろん、「今月の売り上げ、最悪だね!」なんて頭を抱えることもありますよ(笑)。でも、「まあ、来月良くなればいっか」と。
[小林さん] 何年もやっていると、だんだん波が分かってくるんですよね。地球のバイオリズムと同じで、売上も自然とバランスが取れるようになっている感じがします。大爆発もしないけれど、落ち込みもしない。
[奥さん] そうやって、マイペースにやっていたら気がつけば9年経っていた、という感じです。
[ほりば] お二人がストレスなく自然体でいるからこそ、集まるお客様もリラックスして過ごせる居心地の良い空間になっているのですね。

[ほりば] こちらのカフェでは、お茶やお買い物だけでなく、ジャズライブなどのイベントも定期的に開催されていますよね。
[奥さん] 常連のお客様の中に、プロの歌手の方がいらっしゃって。「彼女の歌声をみんなで聴きたいね」という話から、「じゃあ、うちの店でちょっとやってみませんか?」と企画したのが始まりです。遠くのライブハウスまで行くのが難しいご高齢のお客様なども、ここならパッと来て、気軽に本物の音楽を楽しんでパッと帰れるので、すごく喜んでくださっています。
[ほりば] 他にも、折り紙が得意なおばあちゃんや、編み物を教えてくれる方が集まったり、ちょっとした「街のサロン」のようになっていますよね。
[奥さん] 後は「スマホの使い方が分からないから教えて!」と来られる方もいます(笑)。
今の時代、YouTubeとかで何でも調べられて便利ですけれど、やっぱり「ちょっと人に直接聞きたい」という瞬間ってあるじゃないですか。そういう時に、この場所があれば、私たちが知っていることなら答えられるし、逆に私たちもお客様から色々なことを教えてもらえる。物理的にそういう温かい循環が生まれるのも、この「場」があるからこそだなと思います。
[ほりば] それでは、これからこのお店で挑戦したいことや、お二人の今後の目標などはありますか?

[小林さん] 初期の頃は冗談半分で「香港進出だ!ヨーグルトを香港へ届けるぞ!」なんて言っていたんですけど、今は円安もありますし(笑)。地道にいきたいですね。
[奥さん] 最近は、この辺りにある民泊に泊まっている外国人の観光客の方々も、よくフラッとお店に来てくださるんです。これからは日本人だけでなく、言葉の壁を超えて、困ったことや聞きたいことがあったときに気軽に立ち寄ってもらえるような場所になったらいいなと思っています。
そして何より、私たちの最大の目標は「定年退職をしないこと」です。体が動くうちは、ずっと現役でこの場所を続けていきたい。この年齢になってくると、それが一番の目標ですね。
[小林さん] そうそう。そういえばお店を始めたきっかけ、思い出しました。「定年」を意識したからでした(笑)。
会社にいたら60歳や65歳で仕事が終わってしまう。その後の人生を考えた時に、「だったら今のうちから自分たちの好きなことをずっと続けられる場所を作った方がいいじゃん!」と思ったのが大きなきっかけでした。
[奥さん] 雇われていると、定年の延長や更新がどうとか、周りの意見に左右されてしまいますけれど、自分たちのお店なら、元気な限り自分たちの意思でいつまでも続けられる。この「自由さ」が何よりの宝物ですね。
[ほりば] 素晴らしいですね。では最後に、これまでお二人が一番大切にしてきた「想い」を言葉にするとしたら何でしょうか?
[奥さん] 私は「笑い」ですね。
無理に作り笑いをする必要はないけれど、どんなに理不尽なことや大変なことがあっても、その中にどこか「おかしみ」や面白いことを見つけて、フフッと笑い飛ばしていく。そうやって気持ちを切り替えていくことを、私はずっと大事にしてきました。
[小林さん] 私は「心地よさ」です。
お互いに言いたいことを言い合える心地よさ、笑い合える心地よさ。そしてお客様にとっても、ここに来ておしゃべりをしたり、美味しいものを食べたりする時間が、丸ごと「心地よいもの」であってほしい。その感覚を一番大切にしています。
[ほりば] 「笑い」と「心地よさ」、まさにこのお店そのものですね。それでは最後に、これを読んでいる皆さんにメッセージをお願いします!
[奥さん] はい。「ゆの里」の商品や美味しい豆乳ヨーグルトをご用意していますが、何より、私たちとおしゃべりをしに、お話を聴かせに来てほしいなと思います。
身近な人には近すぎて言えないことでも、第三者の私たちになら、気軽に話せることってありますよね。おしゃべりしてストレスを解消して、スッキリしていってください。とにかく話に来てください!
[小林さん] お待ちしています!私もたくさんおしゃべりします(笑)。時々、声が大きくてうるさいかもしれませんが、それもご愛嬌ということで、ぜひお気軽に遊びにいらしてください。お待ちしています!
[ほりば] ありがとうございました!ぜひ皆さん、門前仲町の「みずのとびら」へお二人に会いに行ってみてくださいね。

今回お話を伺ったのは、門前仲町のカフェ「みずのとびら」を運営する奥知子さんと小林路子さん。
お二人の生き方を一言で表すなら、まさに「大川を流れる水」。 出版社でのキャリアを手放し、定年のない自由な生き方へと舵を切ったお二人の人生は、驚くほど自然体で、軽やかです。
「明日行きたくない日なんて、一日もない」
お互いに一線を越えないリスペクトを持ちながら、「笑い」と「心地よさ」のバイリズムを刻むお二人のあり方。そこには、私たちがこれからの人生をストレスフリーに、豊かに生きていくためのヒントが詰まっていました。
★「みずのとびら」
東京都江東区牡丹3-22-3
https://www.instagram.com/mizunotobira?utm_source=ig_web_button_share_sheet&igsh=ZDNlZDc0MzIxNw==